TRAVEL 中欧編

殺意 2001.5.7

「コレはチケットではない。だから金を払え!」ブルガリアの車掌はTassiのチケットを手にすると開口一番こう言った。Tassiは一瞬耳を疑った。わざわざ朝早く手に入れた、それもコンピューターで打ち出したチャンとしたチケットにケチを付けられようとは。しかしこの堂々とした態度の車掌に言われると、本当にチケットではないのかと思うくらい自信がなくなってきた....。Tassiのプリンターでもこのぐらいの偽造は出来るしなあ。とりあえず今までの経緯を説明するが全くダメ。それよりも2度も支払ったってことは、自分のバカさかげんを暴露しているってことか。そう後悔したがもう後の祭り。

「コイツからはまだ搾り取れるぞ.....」そう踏んだ車掌は何やら鞄から料金表の様なモノを取り出し、国境駅からソフィアまでの距離を計算し始めた。「俺は今までの車掌とは違うゼ、ちゃ〜んと計算してるだろ!」赤く濁った目はそう言っているようだった。列車は次の停車駅に近づいている。ここでもめると駅に降ろされて駅舎に連れて行かれそうだ。仮にコチラの言い分が通ったとしても、列車はすでに行ってしまった後だ。もちろん今日中にソフィアに着くことなんか出来ない。万事休す。

日本円にすれば我慢できる金額だったが、彼らにとっては相当な額を支払って、Tassiはそのまま列車に乗ってソフィアに向かった。結局今まで出会った全ての車掌は、Tassiから徴収した金を全て自分のポケットに入れたわけだ。ソフィアにはそうまでして行く価値が本当にあるのか。そんなギモンが沸々と湧いてきた。しかし旅の行程上ソフィア→パリの空路を使わないと、その後のチケット(パリ→成田)が無効になるという理由があるので、ここは何としてでもソフィアまで行かなくてはならない。Tassiは最後の車掌には殺意さえ覚えた。同時に怒りを通り越して無力感すらも感じた。もうどうにでもしてくれ.....。

2時間遅れで列車はソフィアに着いた。すでに時刻は夜12時を回っている。Tassiは必死に迎えの宿の主人を捜した。「Welcome Mr. TASHIRO」そんなプラカードはいくら探しても見あたらない。ペンションに電話をしてみると、電話口に出た女性は予約のことは何も聞いていないと言う。でももし泊まりたいなら部屋はあるからタクシーで来ればいいと。話が違うのでTassiはかなり頭に来て文句を言うが、どうやらブラショフのペンションからは何の連絡も無かったようだ。Tassiは自力でホテルを探す事を告げて電話を切った。それにしても最悪の事態、外はザンザン降りの雨だ。一体こんな時間に泊まれるホテルはあるのか......。