TRAVEL 本編

見なけりゃよかった 1997.4.22

ピレウスに何件かあった楽器店のひとつ。見た感じチョットジミでんなあ。でも昔からやっているっていう雰囲気がありますね....。おっ、何と「1924」って看板に書いてあるぞ。その前に書いてあるのギリシャ語はよく分からないが、たぶん「創業」とか「EST/establishの略」みたいな意味じゃないかな。ここにはあまり高いモデルはなかった。また画面左端の青い扉、実はこの奥が楽器製作工房だったのだ。このお店と関係があるのか分からないが、たぶんそうでしょ。この時すでにTassiはアテネで獲物をゲットした後だったから、積極的に調査しなかったので確かではない。満腹のライオンは人を襲わないのだ。それでも青い扉をガラス越しにチョット覗いたところ、なんとオソロシイ光景が目に飛び込んできた。作業場というにはあまりに雑然としていて、机の上にデッカイ万力が黒グロと据え付けられ、工具はあちこちに散らばり、その横にブズーキのネックがド〜ンと無造作に置いてあった。ボディーの裏のボウルもゴロンと地面に投げ出されている。CRANE HomePageの取材などで見る製作家の整然とした作業場とは大違いだ。人の気配がなかったので中に入って写真でもと思ったが、なにか悪いものを見てしまったようで、正直言って少しひるんだ。こんな所で(失礼)あのブズーキが作られているのかと思うと、そのショックは隠しきれなかったのだ。とにかくここを後にして次の店に行こう....。

何件か回り帰り道を駅に向かう途中、さっきの工房から人が出てくるのが見えた。Tシャツ1枚パンツ一丁でマスクをかけた男がブズーキを持っている。なんと右手にはスプレーガンだ。彼は辺りに人がいないことを確認するとプワ〜っと塗装を始めた。オイオイこんな所でいいの?ホコリが着くんじゃないの?と思いながらTassiは観察モード。スプレーを2、3回吹くと彼はマスクを外し、たばこに火を付けた。そして疲れたように立ち尽くしている。Tassiは彼に楽器職人というよりは木工作業員の姿を見てしまった。生活のために1本幾らにもならない安い楽器を毎日飽きるほど作る。これを長年続けたらおそらく職人魂も失われてしまうだろうな。そんなことを思いながら、暗くなりはじめた道を駅へと向かった。